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痔核について

痔核分類

痔核には肛門の奥、2㎝程の所にある歯状線より口側に生じる内痔核と、肛門側に生じる外痔核とがあります。外痔核はさらに肛門管内外痔核と肛門管外痔核とに分けられます。肛門管外外痔核の代表例は血栓性外痔核です。
脱出性痔核の場合、内痔核主体の脱出なのか外痔核が主体なのかを診断することが重要です。何故なら内痔核は歯状線より口側に存在し、自律神経の支配を受けていて疼痛を伴う治療が可能ですが、歯状線より肛門側に存在する外痔核は体性神経の支配を受けていて疼痛を伴う治療は通常不可能だからです。

病因

痔核の主な原因は、痔核組織における血流の自動調節の破綻による痔核組織への血液流入量の増加と痔核支持組織の平滑筋組織が結合組織に置き換わることが同時に進行することによるとされています。下記注釈1)-3)参照

臨床症状

痔核の症状には、出血、脱出、疼痛、痒み等があります。
痔核の脱出程度に応じてgrade 分類(Goligher分類)がされており、各治療適応の判断の目安になっています。
(表1)

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診断

肛門疾患の診察には、目で見る視診、指で触る指診、肛門内に筒を挿入して診る肛門鏡診、脱出物を再現する怒責診がありますが、痔核治療の適応を決める上で大切なのは怒責診です。
脱出症状がある患者さんの場合、脱出する痔核が内痔核主体なのか外痔核が主体なのかは怒責診にて初めて明らかになります。これは排便時の痔核脱出を再現する診断方法で、施設によって脱出の様子を動画や静止画で撮影する様々な方法が行われています。浣腸後に患者さんにトイレで排便して頂き、脱出状態を撮影します。

治療

痔核の治療には大きく分けて生活習慣の改善やお薬による保存的治療と手術的治療があります。またゴム輪結紮術や硬化療法等の外来診療で行う低侵襲手技による治療もあります。

治療の原則

“No best treatment for hemorrhoids” 下記注釈4)参照
(全ての患者さんに適した最良の痔核治療は無い)と言われているように、痔核患者さんの状況は各々異なるので、治療法を決める際には患者さんの希望や治療の利益と不利益を話し合って決めなければなりません。

治療法の決定

痔核の治療法は前述のGoligher分類によって決められることが多いです。 (表2)
保存的治療は全ての患者さんが対象となる、基本治療です。外来診療で行う低侵襲手技による治療はgradeⅢ症例までが対象となります。手術的治療はgradeⅢ以上の患者さんが対象です。

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保存的治療

痔核の保存的治療には生活習慣の改善とお薬による治療があります。
痔核治療の基本は保存療法です。これによって痔核を進展、悪化させないようにして手術を回避することが大切です。また例え手術となっても、術後痔核の再発、再手術を避けるためにやはり保存療法が必要となります。

生活習慣の改善

生活習慣の改善は、食事に関するものと排便に関するもの、そしてそれ以外があります。
生活習慣上、十分な水分と食物繊維の摂取が推奨され、アルコールの過剰摂取は避けることが必要です。
また、合わせて排便時の過度な怒責や長時間便器に座り続けることも回避しなければなりません。
そのためには極度の便秘や下痢をしないように便性状の改善と便意が発現してから排便する習慣をつけるようにしないといけません。
脱出症状が続く症例でも保存療法で大部分の症状は緩和されるので、保存療法は重要です。
下記注釈5) -6)参照

薬物治療

薬物療法には内服薬と外用薬があります。内服薬は痔核の腫脹緩和に有効なものや様々な漢方薬が用いられます。
外用薬の種類にはステロイド含有のものや局所麻酔剤含有のものなどがあります。
ステロイド含有薬は腫脹、疼痛、出血の強い急性炎症の時期に著効を示すことが多いですが、長期間の使用でステロイド皮膚炎や肛門周囲白癬菌症を生じることがあり、注意が必要です。

外来診療で行う低侵襲手技

ゴム輪結紮法、硬化療法等があります。
gradeⅠ-Ⅱ,Ⅲの一部が適応で局所麻酔下にまたは無麻酔下に行います。
下記注釈7)参照

ゴム輪結紮法

ゴム輪結紮法は専用の結紮器を用いて痔核の基部をゴム輪にて絞扼し、阻血壊死に至らせる治療です。通常無麻酔で行います。痛覚の無い歯状線より口側の内痔核に行うので、原則として術後疼痛はほとんどありません。 (図1)
全周性に脱出するgradeⅢの痔核に対しては、ゴム輪結紮法より手術治療が適応となります。
下記注釈8)参照
またgradeⅢ症例の患者さんに繰り返しゴム輪結紮法を行っても症状が緩和されない場合は、手術が必要です。
血液凝固異常疾患又は抗血栓薬を服用している場合は術後出血の合併率が高いため、ゴム輪結紮術はできません。
再発率は0-12%と報告されています。
下記注釈9)参照
術後合併症は0-18%と報告されています。
下記注釈10)参照

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硬化療法

硬化療法は薬剤を痔核に注入することにより炎症を起こさせ、繊維化を来たらせて出血、脱出症状を改善させる治療です。
5%フェノールアーモンドオイル(Paoscle)を用いる方法と硫酸アルミニウムカリウム水和物・タンニン酸(aluminium potassium sulfate hydrate and tannic acid:ALTA)を用いる方法(ALTA療法)があり、当院では後者が使用されています。
ALTA療法は、痔核組織間質の膠原繊維の繊維化を促す作用により痔核の脱出を改善させる効果があり、gradeⅡ、gradeⅢの内痔核が良い適応です。四段階注射法で行います。 
(図2)
痛覚のある外痔核には投与できません。
ですから患者さんの脱出痔核が内痔核中心なのか外痔核中心なのかを前述の怒責診断で診ておく必要があるわけです。
内痔核の退縮効果により、肛門管内外痔核も軽度縮小しますが、肛門管外の外痔核や皮垂には無効です。
局所麻酔又は無麻酔での施行が可能です。
しかし肛門括約筋の緊張が強い症例は肛門鏡操作がスムーズに行えないので、局所麻酔下の施行が良いとされています。
妊婦さん、授乳婦さん、腎不全で透析療法を受けている患者さん、嵌頓痔核(痔核が出っぱなしになって戻らない)患者さん、放射線治療歴のある患者さんです。
有害事象として発熱、直腸潰瘍、下腹部痛、血圧低下、徐脈があります。
下記注釈11)参照
特定使用成績調査(2070例)では、来院しなくなった患者を再発無しと仮定して、累積再脱出率は1年後4.6%、2年後7.8%、3年後10.1%と報告されています。

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手術治療

先ず保存療法を行い、これが不成功又は副作用が発現した時に手術すべきとされています。
またgradeⅢ以上の脱出症状や保存的治療で改善しない出血症状も手術治療の適応です。
入院して行います。
標準術式である結紮切除術は腰椎麻酔科に行います。肛門首位の皮膚切開から始め、肛門管内の外痔核、内痔核を一括切除します。切除した後の創部の奥側の粘膜部は吸収糸で縫合閉鎖し、手前側は縫わないで開放しておきます。内痔核は多くは3カ所出来ますので、3カ所の傷が出来る形となります
(図3)
治癒率は76-100%、再発率は0-2.5%と報告されており、長期的な根治性が高い治療法です。合併症発症率は後出血0-13.3%、狭窄0.8-5.0%と報告されています。
9)

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各種治療法の決定

診療の現場では、患者さんによっては様々な事情から、単にGoligher分類によって治療を決めれない場合があります。すなわち御自分の置かれている社会的状況(仕事、介護・看病、経済的理由等で入院・手術できない)、あるいは希望・価値観(症状がさほど苦痛でない、入院・手術したくない)によってはgradeⅢ症例であっても保存的治療を選択する場合もあります。
また患者さんによっては、その時の診察時に治療法を決めきれない場合もあります。その場合は、便通を整える治療を痔核に対する薬物療法と並行して行いながら、患者さんと定期的に相談をし、適切な時期に適切な治療法を決めていきます。是非ご相談下さい。

注釈1)Aigner F,Gruber H,Conrad F,et al.Revised morphology and hemodynamics of the anorectal vascular plexus:impact on the course of hemorrhoidal
disease.Int J Colorectal Dis.2009;24:105-113

注釈2)Lohsirwat V.Hemorrhoids:from basic pathology to clinical
management.World J Gastroenterol.2012;18:2009-2017

注釈3)Lohsirwat V.Approach to hemorrhoids.Cur J Gastroenterol
Rep.2013;15:332

注釈4)Turgut Bora Cengiz、Emre Gorgun. Hemorroids.A range of treatments. Cleve Clin J of Med;2019:86(9)612-620

注釈5) Gallo G,Martellucci J,Sturiale A.Consensus statement of the Italian society of colorectal surgery(SICCR):management and treatment of hemorrhoidal disease.Tech Coloproctol 2020;24(2):145-64

注釈6) Sena G,Gallo G,Vescio G,et al.Excisional Haemorrhiodectomy:Where are we ? ;Rev Recent Clin Trials ; 2020 :
http//dx.dori.org/10.2174/1574887115666200319153439 PMID:32189597

注釈7)Varut Lohsirwat. Treatment of hemorrhoids A coloproctologist's
view.World J gastroenterol.2015;21(31):9245-9252

注釈8 ) R,R,van Tol,J.Kleijnen,A.J.M.Watson et al.European Society of
ColoProctology:guideline for haemorrhoidal disease.Colorectal Disiase 2020;22:650-662

注釈9) 肛門疾患・直腸脱診療ガイドライン 2020 年版 日本大腸肛門病学会編. 南江堂、東京、2020 p10

注釈10) 石山勇司、樽見 研、石山元太郎ほか.私の行っている痔核手術-結紮切除を行わない手術法-Anal Cushion Lifting 法.臨床肛門病学 2013;5:29-33


注釈11) ALTA 療法(四段階注射法)ガイドライン[医師用] 初版 2014 年 内痔核治
療法研究会.編. 内痔核治療法研究会、東京、2014 p2,3,7,8,9,13,21

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